排尿障害を呈 した腰椎椎間板ヘルニアの検討 ※排尿障害3% ※排尿障害になりやすい人 ※排尿障害と手術期間

2019年10月03日(木)10:00 PM

整形外科と災害外科
45:(1)127~130, 1996. 127
排尿障害を呈した腰椎椎間板ヘルニアの検討
福岡市民病院整形外科
坂本昭夫・小山正信
黒瀬眞之輔・甲斐之尋
高岡徳彦
目的
腰椎椎間板ヘルニアによる排尿障害を呈する症例は
稀であるが,早期の手術療法が望まれている1)2).今
回,我々は,当科において経験した,排尿障害を呈し,
手術療法を施行した腰椎椎間板ヘルニア4例について
検討した.
対象・方法
当科にて平成5年,6年の2年間で手術療法を施行
した腰椎椎間板ヘルニア129例中,排尿障害を4例
(3%)に認めた(図1).排尿障害を認めない群125
例(以下A群),呈する群(以下B群)とし,考察を
加えた.
結果
A群の年齢は,10歳代12例(9.6%), 20歳代34
例(27.2%), 30歳代26例(20.8%),40歳代32例
(25.6%), 50歳代15例(12.0%), 60歳以上6例(4.8
%)であり,20歳代から40歳代で全体の73.6%をし
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128 排尿障害を呈した腰椎椎間板ヘルニアの検討
図1 2年間(H5-H6)に手術療法を施行した腰椎椎
間板ヘルニア129例中4例(3%)に排尿障害を認
めた.
図2排尿障害を呈さない群(A群99例)における24時
間平均尿流出速度
表1排尿障害を呈し緊急手術を施行した4例
めた.B群では,20歳代3例,50歳代1例であった.
A群の性別は,男性69例(55.2%),女性56例
(44.8%)であり,B群では,男性3例,女性1例で
あった.
A群の椎間高位は,L4/5間74例(59.2%), L5/S
間47例(37.6%),で2椎間で全体の96.8%をしめた.
B群では,男性3例,女性1例であった.
摘出した平均ヘルニア量は,A群1.05g, B群2.29g
であった.
B群4症例を検討した.性別は男性3例,女性1例
で全例,肥満傾向が見られた(平均17%).全例とも
腰痛の既往があり,明らかな外傷歴を持たず,荷物を
抱えたり,立ち上がるときなどの椎間板圧が増加する
動作の時,急性増悪と共に排尿障害を呈している.症
例は両側が2例,片側が2例であり,2例に肛門周囲
知覚障害が認められた.術後,全症例に,膀胱機能の
自覚的改善が見られたが,肛門括約筋の収縮力や,緊
張回復の程度はさまざまであった(表1).
A群125例中99例に24時間,患者に1回尿量と,
排尿時間を記録してもらい,平均尿流出速度を計算し,
結果をプロットした.X軸年齢,Y軸尿流出速度とし,
回帰直線による予測値および,切片の95%信頼区間
を同グラフに示した(図2).
症例供覧
症例2(図3) 26歳,男性,肥満度21%, 4年前
より腰痛があり,荷物を運搬中に腰痛増悪,両下肢の
しびれ感が出現し,当科入院となる.肛門周囲知覚障
害が有り,肛門括約筋の収縮力,筋力は低下していた.
MRIにてL5/Sのヘルニアを認め,ミエロ,ミエロ
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129
図3 Case 2 (26歳男性)ミエログラフィーにてL5/S
レベルにコンプリートブロックを認める.
CTにてL5/Sのコンプリートブロックを認めた.排
尿障害を訴えるもはっきりせず,経過観察していたが,
肛門括約筋の緊張低下および,患者記録による24時
間排尿記録にて尿流出速度2.8ml/secと低下してい
たため,発症より,9日後手術施行となった.術中所
見にてL5/Sの動きが少なかったため,固定をせずに
ヘルニア摘出術のみを施行した.
術後,時間の経過に従い,尿流出速度の回復が見ら
れた(図4).
症例4(図5) 23歳,女性,肥満度11%, 2ヵ月
前より腰痛があり,両下肢の痺れと麻痺が出現し,高
度排尿障害が出現した.翌日当科受診し,発症より,
1日後,緊急手術を行った.来院時MMTにてL4レ
ベル以下の下肢筋力は0-1であった.肛門周囲知覚
障害はなかったが,肛門括約筋の収縮力,緊張は,ほ
とんどなかった.
MRIにてL4/5のヘルニアが見られ,ミエロ,ミエ
ロCTにてL4/5のコンプリートブロックが見られた.
ヘルニア摘出術および,固定術を施行した.
術後の経過は下肢筋力がMMTにて4-5までに
回復し,尿意も術後2日,自尿も術後4日より確認さ
れた.肛門括約筋の収縮力,緊張は,共に正常近くま
で回復した.
術後の尿流出速度を示す,術前は自己排尿困難で排
尿記録が不可能であったが,17日目には,以後自覚
的改善がよく,再度検査する機会を得ていない(図6).
図4 Case 2 (26y M)術後時間の経過に従い
尿流出速度の改善がみられる.
(測定は24時間平均尿流出速度記録による)
図5 Case 4 (23歳女性)ミエログラフィーにてL4/5レ
ベルにコンプリートブロックを認める.
考察
我々の経験した排尿障害を呈した4例における危険
因子として肥満傾向,腰痛の既往,巨大ヘルニアおよ
び,急性増悪があげられる.手術時期と予後成績にお
いて発症より1~2週の間に手術をすると予後が良い
という報告があるが3)4)5),今回の症例も全症例に排
尿障害の改善が見られ,症例1を除くと手術時間が早
いほど改善が良い印象がある.症例1は発症後16時
間と早期に手術したにもかかわらず,回復が悪かった
のは,上位腰椎のヘルニアであり,下位腰椎に比べ,
脊柱管が狭いことがあげられるのかもしれない.また
症例1,症例2は肛門周囲知覚障害が見られ,術後も
肛門括約筋の回復が悪かった.排尿障害を伴う,腰椎
間板ヘルニアは早期の手術療法が望まれている.しか
し,詳しい排尿障害の評価は泌尿器科に委ねることが
多い.我々の施設では,排尿障害の簡便な指標として
患者記録による尿流出速度を参考にしている.今後,
患者記録による尿流出速度と膀胱内圧,筋電図などの,
詳しい膀胱機能との相関を検討する必要がある.
結語
1.当院手術療法を施行した腰椎椎間板ヘルニア
129例中4例(3%)に排尿障害を認めた.
2.排尿機能を患者測定による尿流出速度により評
価した.
3.早期に手術を行う事で膀胱機能回復が期待でき
る.
参考文献
1)岡田正人,他:尿閉を来した腰椎椎間板ヘルニアの術
後成績の検討,中部整災誌,35:316-326, 1992.
2)菅原修,他:腰椎椎間板ヘルニアによる膀胱直腸障害
例の検討,日本パラプレジア医学雑誌,8 (1):272-273,
1995.
3) Tandon, P.N., et al.: Cauda equina syndrome due to
lumbar disc polapse. Indian J. orthop 1:112-119, 1967.
4) Tay, E.C.K., et al.: Midline prolapse of a lumbar
intervertebral disc with compression of the cauda
equina. J. bone Joint surg. 61-B:43-46, 1979.
5)那須正義,他:尿閉を来した腰椎椎間板ヘルニア,中
部整災誌,22:1317-1319, 1979.
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